0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

ラブホテルオーナーの秘められた仕事

「換気の徹底、スタッフの検温、アルコール消毒の実施などを行っておりますので安心してご利用ください」

ラブホテル「6亀頭」のオーナーである江藤さんが眉間にしわを寄せながらこの前貼り出した感染症対策のためのポスターを自分の頭より上に持ちながら管理人室のパイプ椅子に座り、眺めていた。

江藤さんは60歳代で丸顔の小柄なおじさんである。
眼光が鋭く、昼間でもサングラスをかけている。
愛車はレクサスLS。
分かりやすいぐらいのチンピラ風ファッションで、胸ポケットにはいつもマルボロが透けている。
ただ、江藤さんが吸っている姿は見たことがない。

管理人室の机の上にはホテルの出入口を映す液晶のカメラモニターとパソコンがある。
現在、人の出入りは全くない。
江藤さんの隣で売り上げや備品の在庫確認などを手際よく行っている中年の太めのおばさんが現場責任者の沢田さんである。
清掃員の僕が休憩で管理人室に入るといつも柿の種やポテトチップスなどを食べているが、今日は食べていないようだ。


そしてつい10分ほど前に帰ってしまった細身のおばさんがアルバイトの倉橋さん。
コロナ渦ということもあって、今は、沢田さんと僕と倉橋さんでまわしている。

他にもアルバイトはちょくちょく入ってくるが、そのほとんどが定着せず辞めていく。
よく聞くのが「汚物の処理に耐えられない」というものだ。


オーナーの江藤さんはこのホテルの所有者で、めったにやって来ないが、たまに様子を見に来る。
いつもは「ご苦労さん」と白いキラキラした歯を見せながらサングラス越しに笑うのだが、今夜ばかりはそうはいかないようだった。



「低迷するにもほどがある。いつもの2割以下だ。
これが続けばこのホテルもダウンサイジングしなければならなくなる。今は6気筒だけどな」

深刻そうな言葉を並べるわりにはその表情から深刻さが伝わってこない。
江藤さんには他にもシノギがあるのだろう。



「どこのホテルも今はこのような感じですからね。
現に潰れていってるホテルもたくさんありますからまだマシな方だと思います」

沢田さんが在庫確認表のバインダーを壁に引っ掛けた後に言った。



すると江藤さんは軽く頷いた後にこう切り出した。

「一応聞いておくが、お前たちは贅沢が好きか?
それとも切り詰めた生活でも構わないか?」


すると沢田さんは笑って僕の方を見た。

「そういうのは彼に答えてもらいましょう」


突如、僕は江藤さん、沢田さんの視線を感じながらほぼ直感的に「贅沢したいです」と答えた。



「よし、分かった」
こう言って江藤さんは自前のノートパソコンを起動させた。

「ちょっと、見てみろ」
江藤さんが指さすパソコン画面にはAVの隠し撮り風の男女の性行為中の映像が映し出されていた。
映像には20代の男女が白のシーツにさざ波を立てながら少しずつ乱している最中だった。
体位は正常位。
女は小柄で色白。そして男の揺れる広い背中にそっと置かれた小さな両手は微妙にその位置を変えながらまるで爬虫類の手のようだ。


「分かったかな。これ、うちのホテル。
リアルタイムの映像だよ」

そう、江藤さんが言い出した途端、単なるAVだと思っていた僕の下半身に熱い血が流れ出したようだった。

「隠しカメラ。超小型の。この映像をDVDに焼いて売るのさ。結構な値段で売れるんだよ」


そう言うと江藤さんはすぐにパソコンの電源をOFFにし、机の上に置いていたレクサスのキーを手に持った。そして胸ポケットからマルボロの箱をのぞかせながら足音も立てず管理人室を出ていった。