その部屋の間取りは他のものとほぼ同じです。
ただ、違いがあるとすれば、玄関横の壁にシミがあるということです。
シミはシミでもどこか人の形をしたようなシミなんです。
もう、7、8年前に引っ越し作業でその隣室のドアが開いているときに興味本意で当時幼かった息子が勝手に入ろうとするのを止めるためにたまたま見てしまったものです。
私はその隣室のすぐ隣に住んでいましたから、隣室の状況が一番把握しやすい唯一の隣人だったのかもしれません。
~霊界への仕掛け扉~
ある平日の夕方。
ベランダの仕切りを隔てた向こうの隣室から騒ぎ声が聞こえてきた。
ベランダに出ると、植木鉢に使う長い緑の棒を持った女性と初老の男が恐らくこちらを向いて何かをどかそうとしていた。
僅かな隙間から確認できた。
しかし、下を見ても何もない。
私は洗濯物を取り込み、部屋に戻った。
あの奇妙な出来事から2週間後、隣室の住人は引っ越していった。
そして、新たな住人が入ってきた。
その住人は今どき珍しくお手製の表札を掲げていた。
名前は長谷川さん。
ある日の夜、部屋でくつろいでいると、固定電話に電話が鳴った。
出ると、「長谷川さんですか?」というおばさんの声。
私は違いますと言って切った。
その後も今度は男の声で「長谷川さんですか?」。
間違えてかけているかもしれないと思ったが余計なことをしてトラブルに巻き込まれても嫌なので黙認していた。
ある日の朝。
隣室には引っ越し業者の人間が複数人出入りしていた。
しかし、それは違っていたようだ。
シミがある壁をきれいにしているようだった。
その日の深夜、熱帯夜で寝苦しい夜でした。
隣室からうめき声が聞こえてきたのです。
明らかに男の声です。
恐らく長谷川さんです。
翌日、私の部屋のインターフォンが鳴るという現象が複数回起こった。
しかし、扉の穴を見ても誰もいない。
そして、隣室の長谷川さんは、一人暮らしのはずなのに、なぜか、深夜に台湾か中国系の若い男女が騒がしく隣室に出入りしているようだった。なのに、肝心の長谷川さんの姿が見えない。
あまりに短期間で住人が引っ越していく隣室。
私は事故物件ではないかと疑ってサイトを覗いたりしたが、全く該当していなかった。
ある日の朝、また、隣室は引っ越し業者が作業をしているようだった。
さりげなく見ると、また、あのシミが見え隠れしていた。
そして、夜になるとまた電話が鳴る。
「長谷川さんですか?」と。
時刻は19時1分。
毎回違う声で長谷川さんですかと尋ねられる。
しかも、毎回同じ時間。
年が明けて、アパートの住人が集まる地域イベント
で、一番長く住んでいるおばあさんが、教えてくれた。
「あんたの住んでいる部屋、過去に殺人事件が起きたんだよ。」
犯人は長谷川。
女児を誘拐、強姦、そして殺害という、
多くの犠牲者を出した凶悪犯だそうだ。
にもかかわらず、未解決で闇に葬られている事件らしい。
しかし、このアパート、やくざ絡みの不動産経営をしていて、相場よりむしろ高い賃料で住まわせ不都合な事実は隠していたそうだ。
だから、事故物件にも載っていなかった。
私はよく間違い電話がかかってきたことも伝えた。
すると、おばあさんは言った。
「長谷川という漢字の総画数と電話がかかってくる時間、数字にして全て並べてみ」
長=8、谷=7、川=3、19時1分=7、1
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ハ・ナ・サ・ナ・イ