0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

飲食業界は人の上に重荷を作る

「だから売り上げの推移を聞いてるんだ。上がったのか下がったのかどっちだ?」

入社2年目の斎藤はスマホの向こうからおそらくは唾を飛ばしながら叫んでいるエリアマネージャーの岩下の問いに静かに答えた。

「低迷しています」

その後、吐き捨てるようなため息の後、電話は切れた。

営業時間が伸びたせいで、終電に間に合わなくなる日が増え、最近はバイクで通勤することにしている。


バイトの人手不足も相まって社員の負担は増す一方。

親に警察官は危険だから辞めとけと反対されて結果踏み込んだ飲食業界だったが、警察官が涼しいエアコンの効いたパトカーのシートに座り、ぐるぐるまわっている光景を見ると果たしてほぼ立ち仕事のこの業界が正解だったと言えるのだろうか。


「何か間違ったこと言ってるか?」

岩下の口癖である。


岩下はいつも胸ぐらを掴む時の距離で話しかける。
やたら近いのだ。
そして耳もとでこうつぶやく。

「お前は努力が足りない」



「いいですよね。エリアマネージャーは。口先だけであーだこーだ言ってればいいんですから」


那須が言う。

「現場の努力も知らずに何が努力なんですかね。
売り上げ売り上げって言うけど限界がありますよね。」

那須の顔は平べったく、はんぺんのようである。
そして丸い縁の眼鏡をかけている。
細身で頭が禿げている。
彼は唯一40代のバイトだ。
でもがっつり入ってくれるから助かる。
社員以上の存在だ。



那須、お前はずっとここでバイトを続けるのか?」


斎藤が問いかける。

「岩下を成敗するまではね」


「成敗?」

「決まってるじゃないですか。私はあんな売り上げのことしか考えず社員やバイトに還元しない上から目線の岩下のような人間が一番嫌いなんです。だから、何としてでも成敗したいんです」

那須は熱く語った。


「でもどうやって?」

その時、スマホの着信が鳴った。
あと10分で岩下がここに来るそうだ。


「いきなりすぎますよね。フロア掃除しとかないと」

那須は流しに無造作に放り込まれているトングやコテ、ナイフの中から丹念にまるで骨董品を鑑定するかのようにそんな対象物を持ち上げ眺め、触り続けていた。