0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

捏造された夜の街2

「それはそれでまた新たな策を練るわ。」
なぎさに不安はないようだった。
あるいは、不安のない女の仮面を被っているのかもしれない。

たかしは用意してきた質問を書き込んだノートを見る。
国に対してどう思うか?、店の衛生管理は?、もしコロナに感染したら?、。
時間はあと35分しかない。
ろくな話もせず終わらせるわけにはいかない。
だが、これらの質問をどう記事化するのかをつい考えてしまう。
たかしにはある完成された記事のイメージがあって
それをもとに質問をしているに過ぎないのだ。
もう書くことは決まっている。その裏付けをとるだけだ。
だが、どうも、今、ノートに書かれている質問が無駄なような気がしてならない。
それに、なぎさが本音を打ち明けているようにも見えないのだ。
まず、なぎさを被害者と考えた場合、記事タイトルはすでに決まっていた。

「夜の女の三密は風評被害、国からの補償なし、店からの補償なし。」



一方で、なぎさを加害者と捉えた場合の案もいくつか用意されていた。


「金のためならクラスターをも恐れない」

「夜の女、取材NG。唯一、明かされた濃厚接触の闇」


「ウイルスは目に見えないが諭吉はそこにある」



たかしの座るテーブルを挟んだ向かいにいるなぎさの目はどこか深海の名の知れない未来都市のようにも見えるし、あるいは、昼間なのに薄暗い誰もいない森をぬけて目の前にひろがるやはり暗い湖になぎさの両目だけが沈んでいるようにも見えた。


「ポジティブなんですね。」
たかしは言った。


「記者の人ってお堅いイメージがあるけど、意外とラフなんですね。」

なぎさはチャーミングなえくぼを作りながら言った。
それは誉め言葉なのだろうか?

そう言えば、以前、たかしの女友だちの可南子が
街を歩く女性の中から風俗嬢を見分けることができると自慢げに言っていたことを思い出した。
彼女いわく、服装が一般女性より男受けを狙っているのだそうだ。また意外にもそれは清楚系寄りらしい。
「風俗嬢と言ったってギャル系から熟女までいろんなタイプがいるでしょう。」

たかしがそう言うと、彼女はニヤニヤするだけで何も言ってこなかった。

だが、今日、取材を受け入れてくれたソープ嬢のなぎさを見ている限り、可南子が言っていたことと大方一致していて驚いた。

「コロナ、いつ収まるのかな?」
ちょっぴり甘えた声で言うなぎさ。


「僕も知りたいぐらいだ。ただ、取材をしている限り、相当、社会は混乱しているように見えなくもない。」

「たかしさんってなんでそんなまわりくどい言い方をするんですか?」
なぎさがたかしの顔を上目遣いで見る。
そして、こう続けた。


「女性を口説くときも、「好きでないことはない、いや、むしろ好きかもしれない」とか言ってそう。違う?」


図星だった。
たかしはそういうまわりくどい言い方をする癖が幼い時から染み付いている。
なぜかは分からない。
それを個性と言えばそこまでだ。



「なぎささんのおっしゃる通りですね。さすが見る目があります。ところで、ご家族はいらっしゃるんですか?」


なきざのしなやかな身体が一瞬で硬直したように見えた。