0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

アップ・トゥ・デイト

その夜、いつも行くバーの店員が(愛想はなかったが客が少ない分、仕事は丁寧だった)急によそよそしくなって、それに呆れた僕はバーを出た。
「残念です」
そう電話を入れ、そのバーと完全決別した。
この時、バーの店員は若干動揺しているようだった。まさか常連からそんな風に言われるとは思っていなかったのだろう。


この日、僕は彼女とその友人を連れて歩いていたから、さぞかし彼女らは嫌な気分になっただろうと思ったが、僕がクレームの電話を入れる時も、「イケイケ!」という雰囲気だった。
彼女らも腹を立てていたのだろうか。
それとも僕が勘定する分、気を遣っていたのだろうか。



そのバーの店員は愛想こそなかったが、仕事は丁寧だった。
今思えば、客が少なかったのはあの愛想のなさが原因かもしれないと思った。



「別れるときはちゃんと別れなきゃいけないのよ」
彼女の友人がぼそっと言った。



それから、3人で夜の街を散策した。
小さな店はたくさんあるが、どこも客でいっぱいだった。
あのバーの系列店もあったが、そこは満席に近かった。きっと接客がいいのだろう。



結局、以前からよく通りすぎていた外観だけ知っているバーを入口の扉越しに覗いて、マスターらしき男性の顔が見えたところで扉をおそるおそる開けた。
このバーは外観からは決してよさそうに見えなかった。



「3人なんですが」

「うち、0時までなんですが、それでもよろしければ」

時刻はすっかり11時をまわっていた。
店内には大柄なスーツの男性客が4人、にぎやかに談笑していた。
僕は彼女らに確認する。
どちらも頷いている。




そこで出されたものはどれも美味しかった。
感動して涙が出そうな勢いだった。
そして、さっき、彼女の友人が言ったことを思い出した。
「別れた後には出会いがある。あの別れがなかったら、この出会いはきっとなかったわよ」
僕が彼女の友人が言ったことを思い出している時、すでに彼女はまた新たなアップ・トゥ・デイトを飲みの席に添えた。


「俺の連れの話だけど」
男性客はそう断った上で話をはじめた。


「キャバクラの経営は女じゃない。男性客との関係が一番大切。いくら美人を揃えても男性客と仲がよくなければ系列店にも足を運んでもらえない。結局、お金を出すのは男性客だから」



隣の席で談笑していた男性客の1人がそう言った。
他の仲間の男性客も静かに聞いている。
そして僕らもなぜか静かだった。
その男性客の話は鮮明に鼓膜に滞りなく入ってくるような感じだった。
嫌でも入ってくるような音声だった。
単純に話の内容が興味深かったからかもしれない。



会計を終えて、秋の気配すら感じさせる夏の終わりの夜道を3人並んで歩いた。
夜風がこんなに涼しくなるなんて。


彼女の友人は反論するように言った。
「一番大事にしないといけないのは女の子でしょう」


すると、隣を歩く彼女は言った。
「あたかも自分の話のように言ってたね」



ところで、会計を終えて、店を出るとき、マスターは扉を開けて見送ってくれた。

「ありがとうございます」
そう、礼を言った。



初めて訪れたこのバーではお客さんのことをとても大切にしている、いや、少なくとも僕たちのことを今後も大切にしようとしているお店のように感じられた。