0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

彼女の笑顔

「コロナでライブができない。でも歌わずにはいられなくて夜に何曲も叫ぶように歌うんです。曲は全然できない。喉の調子も悪くて薬も効く時と効かない時がある。声がかすれて思うように出ないと何のために生きてるのかさえ分からなくなってしまって…たまに調子よく歌える時があるのだけど、声が出ない時はもう二度とあのように調子よく歌えないのではないのかと不安に駆られ怖くなってしまうんです…」


日曜の夜、3週間ぶりのお泊まりデート2日目。
彼女の里香と2泊3日で箱根にやって来た。
連泊で通常より安く泊まれたホテルの部屋。有料視聴をすすめる薄型液晶テレビの前で二人肩を寄せ合い、あるロックバンドボーカルのドキュメンタリー番組を観ていた。
よく知らないバンドたが、ナレーションとテロップは誰もが知るバンドだと謳う。
ボーカルの男性は髪を肩まで伸ばし、だが、髭は全く生えていなかった。
そして、ハワイアンテイストのシャツとジーパンを合わせ、視線はずっとカメラ越しだった。
番組は彼がメンバーと葛藤するまま終わってしまった。
ロックバンドボーカルというエンターテイナーが意外にも明るく前向きで視聴者に希望を持たせるような終わり方をしていなかった。
まるで大企業が誠実さをアピールするためにあえて不祥事を公表しているかのようだった。
これはバンド側の意向なのだろうか。それとも番組の構成上の問題なのだろうか。



このドキュメンタリー番組が終わった後、他局から買い取ったであろう三流芸人と地方女子アナが旅ロケをするようなものが始まって女子アナの笑い声が聞こえると急に彼女がテレビの電源を消した。


「女子アナの無理した笑顔受けつけないんだよなー」


「分かる」
僕は即答した。
女子に対して「分かる」と言っておけば大丈夫だと何かの恋愛本に書いていたのを同時に思い出した。
共感してくれたと感じるらしい。
確かにそれも分かる。



僕と里香は自然な形でエッチを始めた。
昨夜、つながったばかりの身体を再び結合させる。
とてつもなく気持ち良かったはずなのに、今、こうしてまたそれへの飢えが始まる自分があった。
彼女にフェラをさせる。
あらゆる筋を上手に舐められるようになっている。
だが、挿入した後、彼女の姿は昨夜と同じだった。
胸を揉み、乳首を指先でなぞり、また胸を揉む。
太ももから二の腕まで彼女の裸体は芸術家も必要としているような身体に見える。
僕の勃起したものが彼女の中を突く度にぬるっとしたものがじわりとあふれ出るのが僕の先っぽから感じ取れる。それでイキそうになる。
そして彼女を強く抱きしめながらそれを伝え、さらに強く激しく腰をふる。
彼女の両足はジェットコースターの安全バーのようにがっしりと僕の腰の上あたりに固定されている。
だからバランスを崩すことなくスムーズにピストン運動ができる。
「イク…」
射精をすると同時に声が出る。
彼女の奥の奥に出している。
他のことを考える余裕なんてない。
彼女がどんな表情でどんな思いでそれを受け止めているのかももちろん分からない。
最後の1滴まで流し込む。それまでは抜かずにじっとしている。
そして強く抱きしめる。



行為を終え、またテレビをつけた。
もう深夜だ。世界の鮮やかな風景映像が映し出されている。
そこにナレーションも愛想笑いもない。
ドローンで撮影したような映像がずっと続く。
そして、ホテルの部屋もさっきとは打って変わり、静まりかえっていた。




「会ってない時は少し寂しいけど、会った後、次会うまでの時間の初日はもっと寂しい」

彼女がそんなことを言って笑った。
それが僕にはごく自然な笑顔に思えてならなかった。