0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

梨家先輩の悪魔に犯された脳(小説)

大型ショッピングモールのフードコートでラーメンを食べ終わり、スマートフォンに目をやる。
休日の混み具合は平日のそれと段違いだ。
赤ちゃんの泣き声、ヤンママが子どもの下の名前を叫ぶ声、どこからともなく聞こえてくる笑い声。
無数の雑音に埋もれているはずなのに、僕はある一声に耳をダンボにせざるをえなくなる。

「梨家先輩?」
そう聞こえた。
目の前には背の高いチノパンの男が立っている。
僕は思わず彼の顔を見た。


「やっぱり、梨家先輩ですよね。お久しぶりです。
僕のこと覚えてますか?」
男は目をきらきらさせながら笑うが、僕には見覚えがなかった。
何度、頭の中で記憶を辿ろうとしても何もピンとくるものがなかった。


すると男は僕の座るテーブルの向かいのイスに座った。
「梨家先輩、すごく垢抜けましたね。前はおかっぱで眼鏡をかけてませんでしたか?」

全て男の言う通りだ。
やはり、この男と僕は何かしらの面識があるはずだ。
しかし、どうしても思い出せない。


僕の戸惑った表情は男にも伝わっているはずである。
しかし、男は気にすることなく話を始めた。


「今度のお盆、親父に旅行に誘われて、日帰りだったらいいよって言ったんだけど、親父は頑なに3泊すると言い張って聞かないんだ。
何が悲しくてこんな暑い時にいい歳したおっさんと3泊もしなきゃならないんだよ。
女ならまだしも」


男は不満げに話す。
僕は相槌を打ちながら男の話を聞いていた。


「いいお父さんじゃないですか。旅行に誘ってくれるなんて。羨ましいですよ」


「そんなことないですけどね。ところで、梨家先輩の彼女とはあれから上手くいってるんですか?」


男ははじめて見に覚えのない話を始めた。
僕に彼女はいない。過去にいたこともない。
あれからと言われてもそもそも彼女がいたことがないのだ。
答えようがない。
なのに、なぜ、さっきまでの会話では名前から過去の髪型まで当てていたんだ?
ますます訳が分からなくなる。



仮に僕に彼女がいるとすると、この時だけ僕の脳内から一時的にその情報が抹消されているということになるのだろうか。
いや、そんなはずはない。
だとすれば、この男が勘違いしている?


まあ、多少話を合わせていても問題はないだろう。
根掘り葉掘り聞いてくるわけでもないだろうし。


すると、男が言った。
「あの時は少年法が適用されたから死刑にならずに済んだのですよね?」

何の話をしているのかさっぱり分からなかった。





※梨家は事件当時、少年で医師の診察により記憶障害だと判断され極刑を免れた。