0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

裸体眼(小説)

中高生の頃、視力検査ではクラスで唯一、両目とも2,0だった。
マサイ族だといじられるのも悪くなかった。
当然、コンタクトか眼鏡かの話題になんて入れないし、眼精疲労や眼がしょぼしょぼするなんてニュアンスには無縁だった。
視力が良すぎて遥か前方の信号機の下を通過する乗用車のナンバーまで分かる。
でも、何のメリットがあるというんだ?
中高生の頃は、そう思っていた。



大学に入り、一人暮らしを始めた頃、自炊の買い出しに出かけるため、玄関のドアを開けた瞬間、西日が差してきた。
そしてエレベーターに乗り、1階まで行き、外に出る。
付近には公園があって子どもが無邪気に走りまわっていた。
この時、今までにない異変を感じた。
視界がぼやけるのだ。
何度瞬きしても今まで鮮明に見えていた子どもらの表情が見えない。
まるで、子どもらが顔なしになったようだった。
スマホの見過ぎなんだろうか。ブルーライトは目に良くないって言うし」
翔は心の中でそう思った。



もう中高生の時のように2,0という数字は叩き出せないだろう。
でも、何も困らない。



それからまた異変が起きたのは比較的すぐのことだった。
「通りすがりの女性の下着が透けて見える」
翔は驚いた。困惑した。
女性が着用しているスカートや、パンツに関わらず、すべての女性の下着が透けて見えるのだ。
下から覗いてるわけではないのに。
ところで、視力と関係があるのだろうか。
いくら視力が良くなったとしても服の下に穿いてるものなんて見えないだろう。



とりあえず、視力は復活したのだ。
女性はまさか自分の下着が透けて見えてるなんて思ってもみないだろう。
そう考えた瞬間、女性なんてちょろいなと思ってしまった。



「何、見てるんですか?」
ハチ公前の付近にもたれかかり、スマホを見るふりをしながら通り過ぎる女性の下着を眺めていた時、
いきなり、若い女性が立ち止まり言った。
まさかバレるわけがない。
これは逆ナンパというやつか。
そんな期待感さえ覚えるぐらい、翔は余裕だった。


「渋谷って刻一刻と進化してるなって」

翔がそう答えると、女性は微笑んで言った。

「なんだかアーティスティックですね。ご職業は何をされているんですか?」

「学生です。」

「そうなんですね。私、ドリームキャストの編集長を務めております。稲井と言います。あなたの雰囲気が独特で、ぜひ読者モデルになっていただければとお声がけしました。少しお時間よろしいでしょうか?」

誰を待つでもない。
ただ、通り過ぎていく女の下着を眺めているだけの変態野郎だ。
その姿が独特か。
確かに独特かもしれない。


「はい、いいですよ」


編集長なのに若いな。
それにこの女、パンツ穿いてないし。

ひとつの弱みを握った翔はそのスカウトに快く応じた。