0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

花火の後に(小説)

花火のない夏なんて考えてみれば初めてのことだ。
僕にとって花火は夏の風物詩で花火を通して様々なインスピレーションを受けてきた。
電車の窓から偶然、目撃した花火も、観覧席の一番前を陣取って眺めた花火も、そのどれもが僕の心を打ち、糧となっていた。
「今年は花火観れないね。ゲリラ的にでも打ち上げてくれないかな。花火のない夏なんて初めてだよね」
玲奈と付き合って2年になる。
玲奈と出会った2年前の夏は花火が上がっていたのに。


「出した後はやっぱり疲れるの?」
その年最後の花火が夜空から見えなくなるのを見届けた後、駆け込んだラブホテルの一室、回転式の大きなベッドの上で玲奈は言った。
僕は射精を終え、ベッドにぐったりと横たわり目を閉じていた。
その時は否定もせずうなずいているだけだったが、玲奈は僕を見つめるだけでそれ以上の追求はなかった。

「あれだけ部屋が埋まってて、たまたま空いてた部屋が回転式の大きなベッドって、私たち何か持ってない?」


「何か持ってたら君とは結婚してないよ」
昔、僕の叔父が発した言葉である。
妻の「もっと持ってるものがあなたにあればな」という言葉に対しての返答である。
叔父は優しくて人の悪口を言わなかった。
あれは冗談で言ったのだろうか。
今となっては分からない。


玲奈と僕は静かに抱き合っていた。
もう、このまま朝までいるのだろう。
そう思いながら何を話すでもなく、ただ夜が明けるのを待つだけとなった。

「来年も花火観ようね」
朝日がカーテン越しに差してきた時、玲奈が言った。

「さあ、どうかな。来年は分からないよ」
そう返したら玲奈はそれを冗談だと受け取ってくれるだろうか。
あの時の叔父の顔がふと浮かんでいた。