0.02%の金持ちになるには

大半の庶民と何が違うのか

就活生裕美子(小説)

「持ち物は、ペン、身分証明証、ノートです。
当日は腕章をした係員がおりますのでひと声かけていただければと思います」


「あと1点ですが、マスクの自慰さんとアルコール消毒のご協力をお願いいたします」



裕美子は笑いながらスマホの文面を突きつけてきた。

「このジジイ、そういうことばっかり検索して、、
何、自慰さんって、、「じ」だけで自慰なんて出ないでしょ、普通」


私もつられるように笑って応じた。

「このご時世に就活なんてどんな報いなんだろう。
私、なんか悪いことしたかな」

裕美子はCAを目指してありとあらゆる航空会社を受けてきたが、どこからもお祈りメール。
諦めたのか吹っ切れたのか、裕美子はどこか涼しげな顔をして航空業界から180度転じ、飲食業界に足を踏み入れようとしていたのだった。


そこで今回、受けようとしている会社が「株式会社ニクニクシン」。
肉を製造、販売している会社で、都内に直火焼きハンバーガーの店をいくつか出している。
この会社の最終面接まで裕美子は進んだのだ。



「そもそも会社名が卑猥なのよ。何?ニクニクシンって」

最終面接まで進んだとはいえ、この会社に対して多少の不満があるようだ。

「他も受けてみれば?」

私がそう言うと裕美子は苦笑いした。

「飲食業界もそんな甘くないのよ。まず書類で落とされるし、面接に行くのにも費用がかかる。もう、遠回りするより、一社に決めて落ち着きたいっていうのがあるの。そしてたまたまこの会社がそこまで行ったからもうここに決めようって思ってる。もちろん、最終面接に受かれば、の話だけどね」

裕美子は不満を漏らしながらもある程度の覚悟ができているようだった。

「それに、私、30までに結婚して落ち着きたいんだよね。CAって女社会だから意外と出会いないと思うんだよな。でも飲食は男も多いから将来有望な社員を捕まえちゃおうっていう計画もあるの」

結婚して落ち着くってどういうことだ。
私は心の中で思った。
子育てに疲れて放浪した親の友人の話や、リストラされて学費が払えない同級生の話、事故や病気で亡くなった話、不倫や離婚、DV、一家離散、、、

その何が落ち着くんだろう。
その時、裕美子のもとにメールが来た。



「最終面接ではみなさんにフルーツを使ってとびきりの新メニューを試作していただきます。
メロンといちごとみかんとパイパンは会社のほうで準備しますので、その胸、よろしくお願いいたします」


「やっぱり受けるのやめよう」


おわり