「家族?家族の定義ってなんだろう?籍を入れてるとか入れてないとか、血がつながってるとかつながってないとか、どうせそんな基準で聞いてるんだよね?ならいないよ。」
なぎさは真顔で強く言った。
その一方でなぎさの白くてみずみずしい手先はテーブルに置かれたフラペチーノをかき混ぜるためのストローに添えられていて、その顔つきとは裏腹なまるで天使のようなその動作に別々のものがつながっているのではないかと思った。
「そうなんですね。では、一般的な基準に沿わない前提での家族はいますか?」
「います。」
なぎさは即答した。
そしてこう続けた。
「でも、これ以上答えたくないんです。」
「分かりました。」
たかしは質問を変えた。
「緊急事態宣言が解除されたら、店は再開するのでしょうか?再開すると仮定した場合のなぎささんの対応と再開しないと仮定した場合のなぎささんの対応の両方を聞かせてください。」
なぎさは、たかしの目を見ながらまた笑った。
「ほら、また回りくどくなってるよ。数学の場合分けですか?」
たかしは小学生がおねしょした時にクラスの女の子にバレた時のような恥ずかしさが生じた。
「ごめんなさい。また回りくどくなりましたね。
以後気をつけます。で、緊急事態宣言が解除されたらなぎささんは店に戻るのですか?」
「う~ん。まだ、その時になってみなきゃ分からない。一応、今は1000万円ほどの貯金があるし、それを切り崩しながら生活していこうと思う。」
「そうなんですね。」
その時、時計を見るとちょうど一時間が経過していた。たかしは取材を切り上げようと礼を述べた。
「今日、なぎささんの貴重なお話をお聞かせいただき大変、勉強になりました。これで社会のためになるような記事が書けると思います。ありがとうございました。」
なぎさは優しく微笑んだ。
そしてこう言った。
「人を憎むことはいくらでもできるけど、ウイルスを憎んで攻撃することはワクチンでも開発されない限りできない。私はコロナを憎んでいる。そして攻撃したい。そのためにはどうすればいいのかをできれば取材してきてほしい。みんなが知りたいのはそういうことなんじゃないかな?たかしさんの言う
『社会のためになるような記事』って。」
確かになぎささんの言う通りだ。みんなコロナを憎んでいる。そして奴を撲滅させたい、と。
「そうした記事も書けるように頑張ります。」
なぎさはやはりチャーミングなえくぼを作りながら笑っていた。
完